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「袋井・香りの丘茶ピア篇」


お抹茶をいただく

■茶ピアにある茶畑■
  静岡は袋井市滞在二日目の昼。駅前に出て、バス停に来て見たがバスの本数があまりない。時間を考えてタクシー移動をすることにした。駅前のロータリーにはタクシーがつねに数台待っていたから、その一台に乗り込む。
  「香りの丘茶ピアに向かって下さい。」と伝えると「やっているかどうかわからないけど、いい?」と言う。
  小高い丘の上にあるそこに辿り着くと、駐車場が広がっているものの、そこには車が停まっていない。これは本当に休みなんじゃないかと思って、事務所らしき場所で聞いてみると「やってますよ」と言うが、何をやっているのか今いち全貌が掴めないのだ。何しろ何もない。
■茶室へ向かう日本庭園■
  で、わかったのは茶室があるということだった。というか、それしかないようだ。中心に土産物屋があり、そこで様々なお茶製品を売っているが、あとは一面、茶畑である。だから、タクシーの運転手さんも詳しく知らなかったのだろう。
  日本庭園を抜け、玄関に入ると受付があった。そこで500円支払い茶券を購入する。
  そもそもどういった作法でお茶席というものを楽しめばいいのか、全然分からないから緊張して仕方がない。
■茶室①■
  茶室に入ると、そこのご主人が待ち受けていた。ご主人と言っても女性。女主人である。そこで思い出したのは、確か「掛け軸について誉めなければならないはずだ」ということだった。
  「どちらからいらっしゃったんですか?」などという簡単な会話をニ、三交わして、とうとう向こうから「この掛け軸は…」と説明が来た。
  「春風薫…」云々と説明され、わたしも「はあー」と感心するしかなかった。気の利いた一言を言わなければと思っていたのだが、口を出たのは「風が気持ちいいですねえ」という台詞としては最低の言葉だった。
■茶室②■
  で、菓子が運ばれ、お茶も運ばれ、特に話すこともなく外の庭園を見つめながら、春風を感じることに専念する。
  「初心の方は細々した所作を気にすることはありません。茶席全体の雰囲気や今日のこの席のための陰の努力に感じる心があれば、その人の姿に自然と現われるものです。なれた主人であればあるほど、そのような心は十分に受け止めて下さるものです。それが『和敬』の心です。」
  後にそう説明されているものを読んで安心した。垣根が高くなれば、必然と市井の人びとは離れるし、垣根が低くなれば、守られるべき文化は死んでいく。「和敬の心」には学ぶべき態度がある。

茶摘シーズンと茶工場

■茶摘をする人びと■
  お茶席の女主人に言われて向かったのは、茶ピアの中でも最も高い丘。海が見えるということで向かったのだが、見えるのは茶畑ばかり。
  下を見下ろすと、茶摘をして働く人びとの姿があった。ここは観光地でもあるが、実際に茶畑で働く人びとのための施設のようだ。
  ちょうど時期的に茶摘の時期で、刈られた部分とまだ刈られていない部分の濃淡がはっきりとわかる。
■よく見るとプロペラ■
  で、電信柱のようなもの。
  その先には扇風機のようなプロペラが付いている。それが風にそよがれ回るのだが、何のための風車なのかそれがわからなかった。後で話に聞くところによると、これは霜を防ぐための装置らしく、昼と夜の気温差を和らげるためのものらしい。上空に溜まった温かい空気を地面に押し戻す働きがあるという。
  この町には到るところにこの扇風機があり、電信柱よりもこの扇風機の数の方が圧倒的に多い。
■茶工場■
  丘を降りて、土産物屋の裏に回ると、そこには何台もの軽トラックが行き来している。丘で摘んだお茶っ葉をここに運び込んでいるのだった。
  衛生上の都合で中までは見せてもらえないということだったが、運び込んでいる先まで見せてもらった。
  車に乗っているのはみんな夫婦や家族といった様子で、農業の基本的な姿がここにあったように思った。
■茶葉を運ぶ人びと■
  前回に見た団子屋のおばちゃんと同様、ここでも働く人びとが活き活きとしている。
  後ろのホワイトボードには「本日の目標集荷量○○kg」と書かれている。こういったボードを見ると労働意欲がそがれる気がしないでもないが、ここで働く人びとはそういったこととは無縁で、身体を動かすこと、そのこと自体を楽しんでいるように見えた。
  見学中、待っているトラックの運転手さんはこちらを珍しそうに見ていた。見学者が珍しいようだった。こんなときこそ、見学者としての態度を示す場面だ。ただひたすらに見るということに専念し、決して警戒心を働かせてはいけない。存在を消し、あたかもいない者のように存在しなければならない。それが見学者への道である。まだまだ長い道のりだ。
■まだ刈られていない茶の葉■
  見学も終わり、中央にある土産物屋に戻って抹茶ソフトを買った。タクシーは行ってしまったので、歩いて帰ろうとすると「茶摘体験ツアー」がこれから開かれるようだった。そのためか確実に観光客が増えている。
  茶摘体験をする一人であろう30代後半の女性は外に出るなりこう言う。
  「さあ! レッツゴー!」
  その声が、茶畑の丘に響き渡った。わたしはと言えば、その声を聞きながら、タクシーで来た長い道のりを思い出し「さあ、歩くか」という気持ちになっていた。
 

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